近年、ゲームや映像のリアリティ向上に欠かせない技術として注目されているのがリアルタイムレイトレーシングです。
これは、光の挙動をリアルタイムでシミュレーションし、影や反射、屈折などを物理的に正確に描画することで、より現実に近い美しい映像を生成する手法です。
本記事では、従来の描画方式との違い、対応しているグラフィックボード、そしてリアルタイムレイトレーシングの具体的な活用シーンについて詳しく解説していきます。
- リアルタイムレイトレーシングは光の挙動をリアルにシミュレーションする技術
- 影、反射、屈折を正確に描画し、映像のリアリティを向上
- 従来のラスタライズ方式と異なり、物理的な光の経路を計算
- NVIDIAのRTXシリーズ、AMDのRX 6000シリーズ以降、Intel Arcが対応
- 主にゲームで活用され、没入感を高める
- 他にも映画、アニメ、建築、デザインなどの分野でも活用
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リアルタイムレイトレーシングとは?
リアルタイムレイトレーシングについて基本的な知識と今までとはどう違うのかを解説していきます。
グラフィックスを描画する技術の1つ
リアルタイムレイトレーシング(Real-Time Ray Tracing)は、コンピュータでグラフィックスを描画する技術の一つで、光の挙動をシミュレーションして現実に近い映像を生成する手法です。
まずは言葉で説明するより、動画を見た方がイメージし易いと思います。
水面や車などの反射面に、炎がはっきりと映り込んでいるのが分かります。
特に、光の反射部分、水面の反射部分などがリアルになったことで、より美しい映像になっていますね。
従来のレンダリング技術(ラスタライズ)では、光の反射や屈折を簡略化して計算していましたが、レイトレーシングでは光線を追跡することで、影や反射、透明な物体を通過する光の屈折などをより正確に表現できます。
リアルタイムレイトレーシングは、これらの計算を非常に高速に行うことで、ゲームなどでリアルタイムに美しい映像を生成することを可能にしています。
これにより、プレイヤーはより没入感のあるゲーム・映像を体験することができます。
ここでレイトレーシングを含む3Dのレンダリングについて少し触れておきます。
3Dのレンダリング手法には大きく分けて次の2つあります。
- レイトレーシング
- ラスタライズ
レイトレーシングは、光の挙動を物理的に正確にシミュレートするレンダリング手法です。
これに対して、ラスタライズは、3Dシーンのオブジェクトを2D画面上に高速に表示するための基本的なレンダリング手法で、3Dゲームにおいて主要なレンダリング方式です。
レイトレーシング
レイトレーシングとは、演算処理の結果を元に画像を生成する工程(レンダリング)の手法の一つです。
より精彩な3D描画を行うため、光線(レイ)を出して追跡、物体の反射などを考慮して色彩を計算するアルゴリズムです。
光線がシーン内のオブジェクトに当たって反射、屈折、影、反射光などの効果をリアルタイムで計算し、リアルな照明効果や物理的に正確な影の描写を実現します。
例えば、ゲームをプレイしている際に鏡などの反射物があったとすると、視線は反射してその先の物が鏡に映し出されることになります。
また、ガラスや水溜まりなどの半透明な場合、視線は物体の中を通って屈折して進むので、ガラスにはその先の物体が屈折して映し出されます。
この反射や屈折先の物体を忠実に描画するために、プレイヤーの目線から光線を出して追跡、反射具合などを演算して、その結果を描写します。
これらの処理は負荷が高いため、今までのGPUでは、この辺りの描画は正確なものではなく、何となく違和感のないレベルでぼやっとそれっぽいものを表示していました。
そのぼやっとしたものを忠実に描写できるようにしたのがリアルタイムレイトレーシングです。
ラスタライズ
ラスタライズは、3Dモデルを2Dの画像として描画するための技術で、多くの3Dゲームでこの手法を使っています。
コンピュータグラフィックスにおいて、3D空間に存在するオブジェクトをスクリーン上に表示するためには、これらを2Dのピクセルに変換する必要があります。
この変換プロセスがラスタライズです。
ラスタライズは、各オブジェクトの形状や色、光の当たり方を計算し、それを基に画面上のピクセルに色を割り当てます。
この技術は、計算が比較的高速であるため、リアルタイムでの描画に適しています。
特に、ゲームやアプリケーションでは、リアルタイムでの描画が求められるため、ラスタライズが広く用いられています。
しかし、ラスタライズは光の反射や屈折といった複雑な光の挙動を正確に再現するのが難しいという制約があります。
リアルな光の挙動
リアルな光の挙動を再現するためには、光が物体に当たって反射したり屈折したりする様子を正確にシミュレーションする必要があります。
リアルタイムレイトレーシングは、この光の挙動をリアルタイムで計算し、コンピュータグラフィックスにおいて非常に現実的な映像を生成する技術です。
ラスタライズでは、光の反射や屈折を簡略化して処理していましたが、レイトレーシングでは光の経路を追跡することで、より正確な影や反射、透明な物体を通過する光の屈折などを描写できます。
これにより、光が物体に当たって生じる影や、鏡面や水面に映る反射が現実世界に近い形で描かれるようになります。
例えば、太陽の光が建物に当たると、その影が地面に正確に落ちる様子や、ガラスの窓に周囲の景色が映り込む様子がリアルに再現されます。
特に、光源からの光がどのようにシーン内の物体に影響を与えるかをリアルタイムで計算することが可能になり、動的な環境でも高品質な映像を維持できます。
先程掲載した動画内に置いても、車に反射する炎や水面に映るオブジェクト、ロボットの金属ボディの反射などかなりリアルに描画されています。
これにより、映画やゲームのグラフィックスがよりリアルに感じられるようになります。
リアルタイム処理
レイトレーシングは非常に計算量が多く、リアルタイムでの処理は難しいとされていましたが、近年の技術革新により、これが可能になりつつあります。
特に、GPUの進化や専用のハードウェアアクセラレーション技術の導入により、リアルタイムでのレイトレーシングが現実のものとなっています。
例えば、NVIDIAのRTXシリーズでは、リアルタイムレイトレーシングを実現するためにRTコア(Ray Tracing Cores)というものが導入されました。
3Dゲームも含めパソコンの画面は、基本的に1秒間に60回で更新されており、単純計算で1枚の画像に対して約0.016秒で描画されます。
もし、性能不足で描画が遅れてしまうと1秒間に更新される回数が少なるなるため、カクつきを感じます。
ラスタライズでは計算量が少ないので、リアルタイムに表示するには問題ありませんでした。
しかし、計算量の多いレイトレーシングをリアルタイムに行うのは難しかったのですが、近年処理性能が向上することでこれが可能となりました。
リアルタイムレイトレーシング対応のグラフィックボード
GPUチップのメーカー別にリアルタイムレイトレーシングの対応状況について解説していきます。
NVIDIA GeForce RTXシリーズ
NVIDIAでは、GeForce RTX 20シリーズ以降のグラフィックボードがリアルタイムレイトレーシングに対応しています。
RTXシリーズは、専用のRTコアを搭載しており、これによりリアルタイムでの光の反射や屈折、影の表現が可能になりました。
従来のグラフィックボードでは、これらの処理は非常に重くリアルタイムでの実行は難しかったのですが、RTXシリーズからは対応できるようになりました。
NVIDIAのGeForceシリーズは、コンシューマー向け、ゲーム向けなので、パソコンにグラフィックボードを搭載するとなったら大体このメーカー、シリーズになると思います。
今は、RTX 20シリーズ、30シリーズ、40シリーズと登場しているので、新しいパソコンを購入する、新しいパーツで組み立てるとなったら大体RTXシリーズを選ぶことになります。
一方で、RTX 20シリーズ以前のGTX 10シリーズ、GTX 16シリーズではリアルタイムレイトレーシングに対応していないので注意しましょう。
AMD Radeon RX 6000シリーズ以降(AMD RDNA 2以降)
AMDのRadeonシリーズでは、RX 6000シリーズ以降でリアルタイムレイトレーシングに対応しています。
AMDでは、レイトレーシングに対応するためにRay Accelerators Unitが搭載されていますが、このユニットは、RDNA 2アーキテクチャ以降のGPU(Radeon RX 6000シリーズやRDNA 3世代など)に搭載されています。
RDNA 2アーキテクチャがRX 6000シリーズで、RDNA 3アーキテクチャがRX 7000シリーズです。
Intel Arcシリーズ
Intel Arcシリーズは、最近登場したシリーズなので、全てのグラフィックボードでレイトレーシングに対応しています。
他のメーカーと同様に、Ray Tracing Unitsというレイトレーシング機能をハードウェアで高速化するための専用ユニットが各コア内に組み込まれています。
リアルタイムレイトレーシングの活用シーン
リアルタイムレイトレーシングの技術がどのような分野で活用されているのか見ていきましょう。
ゲーム
ゲームは、リアルタイムレイトレーシングの最も代表的な活用分野です。
特に、光の反射や影の描写をリアルタイムで処理することで、よりリアリティのある映像表現を実現しています。
ただし、全てのゲームがリアルタイムレイトレーシングに対応しているわけではないので、自分が遊びたいゲーム毎がリアルタイムレイトレーシングに対応しているかを事前に確認しましょう。
リアルな反射表現
水面や金属表面、ガラスなど、反射を伴う素材を持つオブジェクトに対してリアルタイムレイトレーシングを適用することで、環境の映り込みをリアルに表現できます。
例えば、鏡の中に映るキャラクターの姿やガラス越しに見える景色などです。
従来の技術では表現が難しいシーンがリアルに描写され、プレイヤーが没入感を感じやすくなります。
これにより、ゲーム世界の一体感が増し、視覚的な美しさも大幅に向上します。
正確な影の生成
光源と物体の位置関係に基づいて、リアルタイムで正確な影を生成します。
従来のシャドウマップでは、影が正確に表示されないことや遠くなるにつれて影がぼやけるといった問題がありました。
しかし、レイトレーシングを使うことで、オブジェクトの形状や光源の位置に応じたリアルな影を表現できるようになります。
グローバルイルミネーション(間接照明)
レイトレーシングでは、光が直接当たらない場所でも間接光によってシーン全体が柔らかく照らされる様子を表現することができます。
これにより、部屋の奥の暗い部分や、建物の裏側でも自然なライティング効果を再現できます。
例えば、日光が壁に反射して部屋全体を照らす場合や屋内でライトが物体に当たった後、光が反射して周囲を明るくする様子をリアルに表現できるため、視覚的なリアリズムが飛躍的に向上します。
リアルタイムの屈折・透過効果
ガラスや水のような透明な物体を通した光の屈折や透過効果もリアルタイムレイトレーシングを使うことで正確にシミュレーションできます。
これにより、ガラス越しに見える風景が歪んで見えたり、水面を通したときに物体がゆがんで見える様子などを表現できます。
映画・アニメーションのプリビジュアライゼーション
リアルタイムレイトレーシングは、映画やアニメーション制作の段階でも活用されており、特に「プリビズ(Pre-Visualization)」と呼ばれるシーンの仮想プレビューでその効果を発揮します。
プリビズとは、映画やアニメーション制作における事前の視覚化のことです。
簡単に言うと、最終的な映像を制作する前に、シーンのカメラワークや演出、キャラクターの動きなどを仮のビジュアルで確認し、制作工程を円滑に進めるためのプロセスです。
これまでは高品質なレンダリングを行うために長い時間が必要でしたが、リアルタイムで光の挙動やライティング効果を確認できることで、制作の効率が大幅に向上しました。
プリビズを用いると、ディレクターやアーティストはシーンのライティング、カメラアングル、物体の配置などをリアルタイムで調整でき、シーン全体の雰囲気をすばやく確認できます。
これにより、最終的な映像を制作する前に、シーンの演出やライティングを細かく詰めることができるため、制作のスピードとクオリティの向上が実現します。
近年では、Unreal EngineやUnityといったリアルタイムレンダリングエンジンがこの用途で多く使われています。
建築ビジュアライゼーション
建築分野でも、リアルタイムレイトレーシングを用いたビジュアライゼーションが広く活用されています。
建築ビジュアライゼーションとは、建築物が完成した状態を立体的にわかりやすく可視化する技術のことです。
設計段階で建築物の外観や内装をリアルタイムでシミュレーションし、光の当たり方や影の付き方、素材ごとの反射や屈折効果などを可視化できます。
これにより、建物が完成したときの見え方をより正確に確認でき、デザインの修正や提案に役立ちます。
例えば、日中や夜間のライティング条件を切り替えたり、季節や時間帯に応じて日差しの当たり方をリアルタイムでシミュレートすることも可能です。
これにより、建築デザインが異なる環境でどのように見えるかを顧客に対して視覚的に訴求でき、建築計画の段階でより質の高いデザインを提案できるようになります。
デザイン・シミュレーション
工業デザインや製品のプロトタイプシミュレーションでも、リアルタイムレイトレーシングは効果を発揮します。
自動車などの工業製品では、表面の反射や屈折、金属の質感、布地やガラスの透明度などをリアルタイムで調整して製品の見え方をシミュレートできます。
特に、異なるライティング条件や素材の組み合わせを素早く確認できるため、デザイナーやクライアントとのコミュニケーションがスムーズになり、製品デザインの最適化に役立ちます。
例えば、車の外装のメタリック塗装が日光の下でどのように見えるかをリアルタイムで確認し、デザイン選定の判断材料とすることができます。
VR/ARアプリケーションでのリアリティ向上
リアルタイムレイトレーシングは、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)アプリケーションでも利用され、ユーザー体験の向上に役立ちます。
VRやARでは、現実世界とデジタルオブジェクトが一体化するような表現が求められるため、リアルタイムレイトレーシングを使うことで光の反射や影をリアルに描写し、ユーザーにより深い没入感を提供できます。
例えば、VR空間内での照明や影がユーザーの動きに合わせて変化することで、まるで現実空間に存在しているかのような感覚を得ることができます。
これにより、教育、シミュレーション、エンターテイメントなど、さまざまな分野での応用が期待されています。
ただし、VR/AR機器自体にはサイズ的や消費電力、初別などの制約からレイトレーシングに対応するものが少ないです。
そのため、レイトレーシング対応のグラフィックボード・ゲームをVRなどの機器に表示するというように外部入力する形で使うのが一般的ですね。
まとめ:ゲームをより美しく描画する技術
リアルタイムレイトレーシングというグラフィックス技術について基本的なところから対応しているグラフィックボード、活用事例について解説しました。
改めて重要なポイントをまとめておきます。
- リアルタイムレイトレーシングは光の挙動をリアルにシミュレーションする技術
- 影、反射、屈折を正確に描画し、映像のリアリティを向上
- 従来のラスタライズ方式と異なり、物理的な光の経路を計算
- NVIDIAのRTXシリーズ、AMDのRX 6000シリーズ以降、Intel Arcが対応
- 主にゲームで活用され、没入感を高める
- 他にも映画、アニメ、建築、デザインなどの分野でも活用
リアルタイムレイトレーシングは、光の挙動をリアルにシミュレーションすることで、ゲームや映像をより美しく描画する技術です。
この技術により、影や反射、屈折などが現実に近い形で表現され、プレイヤーや視聴者に没入感のある体験を提供します。
特に、NVIDIAやAMD、Intelの最新グラフィックボードがこの技術をサポートしており、ゲームや映画、デザインの分野で活用されています。
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