メモリのECC機能とは、メモリ内のデータのエラー検出と訂正を行う機能です。
主に、データの高い信頼性が求められるサーバーやワークステーションで使われる機能で、自作PCや一般のコンシューマー向けパソコンではあまり使われません。
- ECC機能は、メモリのデータエラーの検出と訂正を行う技術
- 電磁波や放射線、経年劣化などによりデータエラーが発生
- パソコンを1日8時間使えば約3.6回発生している
- ECCはシステムの信頼性向上を目的とした機能
- 主に、サーバーやワークステーション、ミッションクリティカルなアプリ、科学計算などで使用される
- データエラーで預金データの848万8608円が10万円になるかも?
- 普段使い、ゲームや動画編集などの一般的な用途では使わない
- 通常のメモリと比べて容量当たりの価格が高く、速度が遅い
メモリの規格、性能面や互換性の観点からの選び方も解説しています。
≫ 関連記事:自作PCのメモリの選び方【性能面 / 機能面 / 互換性】
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メモリのECC機能とは?
ECC機能が、どういう風な仕組みなのか、そもそもなぜデータエラーが発生するのかなど疑問があると思うので解説していきます。
メモリのデータエラーの検出・訂正
ECC(Error-Correcting Code)機能とは、ビット反転したデータのエラー検出と訂正を行う機能です。
ビット反転(ビットフリップ)とは、デジタルデータにおいて、メモリ内のビットの値が意図せずに変わる現象を指します。
具体的には、ビットの値が「0」から「1」、または「1」から「0」に変わることを意味します。
このようなビット反転は、データの信頼性や正確性に影響を与えるため、特にメモリやCPUなどのハードウェアにおいて重要な問題となります。
通常のメモリは、データを格納するためのデータビットのみですが、ECCメモリの場合は、データの整合性をチェックするためのパリティビットが追加されます。
これにより、シングルビットエラー(1ビットのみが誤っている状況)を検出・訂正、または、2ビットエラー(2ビットが誤っている状況)を検出することができます。
ECCメモリに追加されるパリティビット数は、メモリの容量や設計によって異なりますが、一般的には、64ビットのデータに対して7ビットから12ビット程度の範囲で追加されることが多いです。
これにより、シングルビットエラーを自動的に訂正し、ダブルビットエラーを検出することが可能になります。
さらに複雑なECC実装では、より多くのビットエラーを検出し訂正できるように設計されています。
ECCメモリのエラー訂正能力は、基本的には追加のビット数が多いほど、より高度なエラー検出および訂正が可能となります。
データの高い信頼性が必要な場合に使う機能
ECC機能を持つメモリは、システムに高い信頼性が必要とする場合に使われます。
一方で、自作PCやコンシューマー向けパソコンなどには一般的には使われません。
特に、サーバーやワークステーション、科学計算などの分野、ミッションクリティカルなアプリを実行する場合は、データの正確性が非常に重要です。
ミッションクリティカルとは、業務遂行における重要度の度合いを示す言葉で、 サービスの停止や誤動作が、人命に関わる問題につながる場合や経済的・信用的に莫大な影響が出る場合のことを指します。
例えば、サーバーが大量のデータを処理する際にエラーが発生すると、システム全体の信頼性が損なわれる可能性がありますが、ECCメモリを使用することでそのリスクを軽減できます。
科学計算においても、計算結果の正確性が求められるため、ECCメモリの導入が推奨されます。
より具体的な用途で言うと、銀行の預金データ、データーセンター、決済システムなどがあります。
お金やお客から預かっているデータを扱う場合、絶対にデータを破損させるわけにはいきません。
たった1ビット反転するだけで金額がとてつもない大きな数字、あるいは、小さな数字へと変わる可能性もあります。
例えば、10万円の預金データがある場合、2進数で表記すると「0000 0001 1000 0110 1010 0000」となります。
※実際の金融システムではもっと複雑な符号化が用いられるので、例としてシンプルにしています。
ここで、最上位ビット(左端のビット)が1ビットだけ反転した場合、すなわち「0000 0001 1000 0110 1010 0000」から「1000 0001 1000 0110 1010 0000」に変わったとします。
そうなると、10万円のデータが848万8608円になります。
増える分には嬉しいですが、逆のケースで数字が減る場合もありますし、そもそも数字がちょくちょく変わる銀行にお金を預けたくはありませんよね。
このビット反転による影響は、実際の銀行システムでは非常に致命的です。
正確な金額の計算が求められるため、1ビットの誤りでも大きな金額の過不足につながり、それが顧客への誤った請求や誤入金など、多くの問題を引き起こす可能性があります。
このような理由から、金融機関では通常、ECCメモリや信頼性の高いストレージを使用し、データの整合性と信頼性を確保するための対策を行っています。
自作PCやコンシューマー向けパソコンでは使わない
自作PCやコンシューマー向けパソコンでは、コストやパフォーマンス、必要性の観点からメモリのECC機能はほとんど使われません。
一般的な用途では、非ECCメモリでも十分な性能と信頼性が得られるためです。
また、ECCメモリの方が速度が遅くなるため、パフォーマンスの低下にも繋がります。
特に、ゲーム用途であれば、メモリの速度も重要になってくるため、むしろ一般的な用途では不向きと言えます。
つまり、パフォーマンスを低下させてでも、メモリの価格を高くしたとしても、信頼性の高い運用をしなければならない用途でなければ使う必要がないということですね。
ECC機能付きメモリは普通より高価
EECメモリは、一般的な非ECCメモリと比べると容量あたりの価格が高いです。
例えば、64GB(32GB×2)の非ECCメモリが2万円(ヒートシンクやLED付きで4万ぐらい)ですが、同じ容量のECCメモリは5万ほどします。
ECC機能により、システムの信頼性と安定性が向上しますが、その分、追加の回路やチップが必要であり、製造プロセスも複雑になるため、どうしてもコストが高くなります。
したがって、ECCメモリは、信頼性を重視するシステムにおいては価値がありますが、一般的な用途ではコストパフォーマンスが低いとされることが多いです。
データエラーが発生したらどうなるのか
一般的なメモリである非ECCメモリで、このビット反転のデータエラーが発生した場合に、そのまま計算や処理をするとアプリやパソコンはクラッシュ・強制終了する可能性があります。
ビット反転する場所はランダムなので、そのビットの場所とデータの重要度によっては、何事もなく動作し続けてくれる場合もありますし、クラッシュする場合もあります。
個人のパソコンであれば再起動すれば良いだけですが、サーバーや科学技術計算、金融システムなどでは、そう簡単に再起動ができないため、こういったECCメモリが必要になってきます。
なぜデータエラーが発生するのか
データエラーが発生する主な原因は、メモリ内のビットが外部の影響を受けて、ビット反転が起きるからです。
このビット反転は、宇宙からの放射線(宇宙線、太陽放射など)や電磁波、その他に、電圧の負荷、温度変化などの環境要因、パーツの経年劣化などによって引き起こされることがあります。
メモリのビットは0か1の状態を持っていますが、これらの外部要因がビットの状態を変えてしまいます。
ケンさん
環境要因や経年劣化であれば、環境を整えたり、パーツ交換などのメンテナンスで対応することができますが、宇宙からの放射線や電磁波については防ぎようがないため、発生した際にどのように検知・修正するのかという観点でECC機能が役に立つというわけです。
データエラーの発生頻度について
データエラーの発生頻度は、1日約3.6回と思いのほか高い頻度で発生しています。
普段パソコンを使っているとアプリがクラッシュすることはあまりないと思いますし、その上、仮に起きたとしても、クラッシュした理由がビット反転によるものかどうかが分からないので、実際には発生する可能性はかなり少ないと考えるかもしれません。
何百万ものDIMMメモリのエラーを2年半にわたり測定したGoogleの論文によると、メモリ1枚辺り、年間で平均約4,000回近い訂正可能なエラーが発生するようです。
ただし、エラーを経験したDIMMは、エラーがないDIMMと比較して、同じ月にもう1つのエラーを経験する確率が13〜228倍高くなるようなので、平均にかなりブレがありそうですね。
つまり、メモリによってエラー頻度が高かったり、あるいは、低かったりということです。
ひとまず、平均4,000回で見てみると1日当たり約11回、サーバーに搭載しているメモリで稼働時間は1日24時間であるため、1日8時間ぐらいパソコンを使う方にとっては、約3.6回ものエラーが発生していることになります。
思いのほか高い頻度でエラーは発生しているようです。
この論文を読んで分かったことですが、私のパソコンもメモリによる不具合が出ていたので、おそらく、経年劣化によりエラーが蓄積されて不具合が出ていたのだと思います。
私の場合、1日8~12時間、5年ほど使っていたSurface Pro 6があるのですが、4年目ぐらいでこのエラーによる不具合が出てきました。
基本的に1日の作業が終わってもシャットダウンをせずにスリープするという使い方をしていましたが、4年目ぐらいに2日以降にちょくちょくメモリ関連のエラーが発生していました。
おそらく、メモリが経年劣化していて、長時間使うことでメモリのエラーが蓄積され、それがユーザーに分かる不具合という形で出てきたのだと思います。
発生頻度からして1日でエラーは起きているはずですが、1,2個の少ないエラーであれば、あまり影響はないようですね。
それ以降、毎日シャッドダウンすることでメモリのデータをリフレッシュするようにしてから発生しなくなりました。
しかし、サーバーやワークステーションだけの話ではなく、一般的なパソコンでも普通に影響していることが分かります。
メモリのECC機能を使う条件・ハードウェア要件
一般的な用途であればECCメモリは不要ですが、もし搭載するとなった時のために必要な条件やハードウェア要件について解説します。
メモリがECCに対応していること
大前提として、メモリがECC機能に対応している必要があります。
メモリの仕様表を確認するとECCに対応しているか、対応していないかが書かれています。
また、型番にも「ECC」と書かれているので見分けは簡単につくと思います。
マザーボードのチップセットがECCに対応していること
メモリ以外にも、マザーボードのチップセットもECCに対応している必要があります。
一般的に、サーバー向けやワークステーション向けのマザーボードはECC対応のチップセットを搭載していることが多いですが、一般的なデスクトップ向けのマザーボードでは対応していないことが多いです。
そのため、ECCメモリを導入する際には、まずマザーボードの仕様を確認し、チップセットがECCに対応しているかどうかを確認することが重要です。
例えば、「インテル チップセット W680」で検索するとチップセットの仕様ページが出てきます。
そのページのメモリ仕様のECCメモリー対応に対応状況が書かれているので確認しましょう。
CPUがECCに対応していること
最後に、CPUもECCに対応している必要があります。
こちらも同様に、CPUの仕様表に書いているので、必ず確認しておきましょう。
例えば、「Intel Core i9 14900K」のメモリ仕様にECCメモリ対応の項目があります。
メモリのECC機能についてよくある質問
メモリのECC機能について、よくある質問について解説します。
メモリがECCに対応しているかの確認方法
メモリがECCに対応しているかを確認するためには、いくつかの方法があります。
- メモリの型番や仕様の確認
- BIOSやUEFI設定の確認
- メモリチップの確認
メモリモジュールには通常、型番や仕様が記載されており、これを調べることでECC対応かどうかを判断できます。
型番の中に「ECC」や「Error-Correcting Code」といった記載がある場合、そのメモリはECC対応です。
また、型番が記載されているのであれば、その型番を検索すれば仕様が出てくると思うので、そこで確認することができます。
次に、システムのBIOSやUEFI設定を確認する方法もあります。
多くのマザーボードは、ECCメモリをサポートしている場合、BIOSやUEFI設定でECC機能を有効にするオプションがあります。
この設定を確認することで、システムがECCメモリをサポートしているかどうかを確認できます。
次に、メモリチップ自体を確認する方法です。
ECCメモリは通常、データのエラーを検出・修正するために追加のチップを搭載していることが多いため、非ECCメモリよりも多くのメモリチップを持っています。
非ECCメモリは、このように規則的にチップが並んでいて、容量に対して割り切れるチップ数であることが多いです。
一方で、ECCメモリは、チップ数が多かったり、不規則に並んでいることが多いです。
ただし、絶対この通りではないので、型番やBIOSなどで確認するのが良いかなと思います。
ECC機能に対応・非対応メモリの混在について
ECC機能に対応したメモリと非対応のメモリを混在して使うことは推奨されていません。
混ぜてもマザーボードに対応していればECC機能を使うことができますが、互換性はないため、混在するとパソコンが起動しなくなります。
マザーボードのメーカーもECCメモリと非ECCメモリを混在して使うことに対して、動作保証していないことが多いので、基本的には両者を混在させて使用するのはやめておきましょう。
また、仮に混在して動作するとしても、データがメモリに保存される場所によって、データエラーを検出、訂正するのであれば、システム全体の信頼性が上がることにはなりません。
したがって、ECC機能を活用したい場合は、すべてのメモリモジュールがECC対応であることを確認することが重要です。
ストレージ(SSD/HDD)のECC機能について
様々な要因によってメモリでビット反転によるデータエラーが発生するのであれば、データを保存しているストレージ(SSD/HDD)にも同様の現象が発生するのではと疑問に思うはずです。
実際にその通りで、ストレージもデータエラーは発生する可能性があり、データを格納しているメモリセルやディスク上の磁性体に影響を与えます。
SSDでは、NANDフラッシュメモリを使用してデータを保存します。
フラッシュメモリセルは、電荷を利用してデータを保持するため、放射線による影響を受けやすいです。
放射線がフラッシュメモリセルに衝突すると、誤って電荷が変動し、データのビットが反転する可能性があります。
HDDでは、磁気ディスク上にデータを記録します。
磁気ディスクは放射線による直接的なビット反転のリスクは比較的低いですが、非常に強い磁場や特定の環境条件下では、データが磁化逆転を起こす可能性があります。
ただし、これは一般的な使用状況下では非常にまれのようです。
では、SSDやHDDにECC機能が搭載されているのかどうかが気になるところですが、基本的にはECC機能が搭載されています。
ただし、製品や用途よって異なってきます。
コンシューマー(一般消費者)向けSSD・HDDには、ECC機能が搭載されているようで、データの書き込みや読み出し時に発生するエラーを検出し訂正するための基本的なECCが提供されます。
データセンターや企業用のエンダープライズ向けSSD・HDDには、より高度なECC機能が実装されているようです。
これにより、ミッションクリティカルなアプリケーションでもより高い信頼性を維持することができます。
ただし、一部の低価格帯や特定用途向けのストレージデバイス(例えばUSBメモリやSDカード)では、コスト削減のためにECC機能が搭載されていない場合があります。
このようにメモリだけでなく、ストレージにおいてもデータを保護するために様々な対策が施されています。
まとめ:ECC機能でデータの信頼性は上がるが、一般人には不要。
メモリのECC機能とは、データエラーを検出し訂正する機能で、主にデータの信頼性やミッションクリティカルなアプリを実行するサーバーやワークステーション、科学技術計算などで使われます。
ただし、一般的な用途では、そこまで信頼性の高いデータは必要ない上、ECCメモリが高い、検出・訂正をする処理が加わるためパフォーマンスの低下に繋がるため、基本的には使用しません。
改めて、ECC機能のメモリについてまとめると次のようになります。
- ECC機能は、メモリのデータエラーの検出と訂正を行う技術
- 電磁波や放射線、経年劣化などによりデータエラーが発生
- パソコンを1日8時間使えば約3.6回発生している
- ECCはシステムの信頼性向上を目的とした機能
- 主に、サーバーやワークステーション、ミッションクリティカルなアプリ、科学計算などで使用される
- データエラーで預金データの848万8608円が10万円になるかも?
- 普段使い、ゲームや動画編集などの一般的な用途では使わない
- 通常のメモリと比べて容量当たりの価格が高く、速度が遅い
メモリだけでなく、ストレージにもECC機能が付いており、世の中の重要なデータがいかにして守られていることが分かりましたね。
メモリの規格、性能面や互換性の観点からの選び方も解説しています。
≫ 関連記事:自作PCのメモリの選び方【性能面 / 機能面 / 互換性】
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