最新のグラフィックカードは年々性能が向上し、それに伴って必要とする電力も大きくなっています。
従来のPCIeコネクタでは電力供給が追いつかなくなってきた背景から登場したのが「12VHPWR(16ピン)」という新しい電源コネクタ規格です。
最大600Wもの電力を安定して供給できるこのコネクタは、NVIDIA GeForce RTX 40シリーズ以降のハイエンドGPUを中心に採用が進んでおり、今後のPC自作やアップグレードの際に重要な要素となるでしょう。
本記事では、12VHPWRコネクタの基本的なところからGPU・電源ユニットでの採用割合まで詳しく解説します。
- 12VHPWR(16ピン)は最新GPU向けの新しい電源コネクタ
- 最大600Wまで安定した電力供給が可能
- RTX 40シリーズ・50シリーズのハイエンドGPUを中心に採用
- 850W以上の電源ユニットで12VHPWRコネクタの搭載数が多い
- 従来のPCIeコネクタよりも高出力・安全性が向上
- 信号用ピンで電力供給を最適化し過電流リスクを低減
- 12VHPWRはケーブル1本で配線が簡素化される
- 電源ユニット選定時は12VHPWR対応有無を必ず確認する
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12VHPWRについて
12VHPWRの基本的な部分から解説していきます。
12VHPWR(16ピン)とは?
12VHPWR(16ピン)は、最新のグラフィックボードに対応するために設計された新しい補助電源コネクタで、大体2022年頃に登場し始めました。
12 Volt High Powerの略称なので読み方は「12ボルト・ハイパワーコネクタ」で、端子が16ピンなので、単純に16ピンコネクタと呼ばれることもあります。
ケンさん
このコネクタは、特に高性能なGPUが必要とする大電力を供給するために設計されており、従来のPCI Expressコネクタの8ピンや6ピンのコネクタよりも多くの電力を供給でき、仕様により最大供給電力が600W、450W、300W、150Wと設定されています。
これにより、特に高負荷のゲームやグラフィック処理を行う際に、安定した電力供給が可能になります。
規格上はこの4つの電源供給能力に対応しているものの、150WのPCI Expressコネクタが不足でこのコネクタが登場したことを考えると、実質300W以上のものが搭載されることが多いですね。
また、このコネクタは、複数のPCI Expressコネクタを接続するより、12VHPWRを1本接続する方がケーブルの取り回しが簡単で、ケース内のスペースを有効に活用できるという利点もあります。
12VHPWRの必要性・登場背景について
12VHPWRコネクタが開発された背景には、近年のグラフィックスカードやその他の高性能PC(ワークステーションやAI学習用コンピュータなど)の電力需要の増加があります。
特に、NVIDIAの新しいGeForce RTX 40シリーズのようなハイエンドGPUは、より多くの電力を必要とするので、これを安全かつ効率的に供給するために12VHPWRコネクタが採用されています。
また、近年のGPUは、ゲームや映像処理だけでなく、AIや機械学習、データ解析などの分野でも重要な役割があります。
これに伴い、GPUの性能は飛躍的に向上していますが、それに比例して電力消費も増加しています。
高性能GPUは、数千~1万ものコアを持ち、大量のデータを並列処理する能力がありますが、処理能力が向上するほど消費電力も増える傾向にあります。
特に、3Dゲームや3DCGなどのリアルタイムレンダリングやAIモデルのトレーニングなど、高度な計算を必要とするタスクでは、GPUの電力需要が非常に高くなります。
12VHPWRコネクタは、従来の8ピンPCIeコネクタに比べて、より高い電流を扱うことができるため、最大600Wの電力を供給することができます。
これにより、ユーザーはより高いパフォーマンスを引き出すことができ、また、電力供給の効率が向上することで、発熱の抑制や安定性の向上といったメリットもあります。
さらに、12VHPWRコネクタは、将来的な電力需要の増加にも対応できるよう設計されており、これからのPCパーツの進化に伴う電力要求を見据えられています。
ケンさん
このように、12VHPWRコネクタは、最新のハイエンドGPUに対応するために不可欠なものとなっています。
12VHPWRのピン構成
12VHPWRコネクタは、16ピンで次の2つのピンで構成されています。
- 12本の電力供給用のピン
- 4本の信号用のピン(シグナルピン)
電力供給用のピンは、グラフィックスカードに必要な高い電力を効率的に供給します。
信号用のピンは、電源ユニットとグラフィックスカードの間で通信をすることで電力供給の状態を監視し、グラフィックスカードがどれだけの電力を必要としているかを電源ユニットに伝えます。
これにより、電源ユニットは必要に応じて電源供給を調整することができるようになるので、過電流や過電圧のリスクを軽減します。
ケンさん
従来のPCIeコネクタとの違い(性能 / 安全性向上)
12VHPWRコネクタにより、従来のPCIeコネクタと比べ、供給できる電力と信号用のピンにより安全性が向上しています。
従来のPCI Expressコネクタ(8ピン, 6ピン)では、最新のハイエンドGPUが必要とする電力を効率的に供給することが難しくなってきました。
8ピンのPCIeコネクタでは最大150Wまでなので、PCIeスロット自体が75W供給できることを踏まえても、ハイエンドGPUの場合は、2, 3本と複数本のPCIeコネクタが必要になってきます。(6ピンのPCIeコネクタは最大75W)
これに対して、12VHPWRコネクタであれば、最大600Wなので1本のケーブルにまとめることができます。
1本になることで、物理的な接点が減り、接続ミス(抜けかけ、接触不良、混在接続)のリスクも減りますし、コネクタ形状も独自で誤挿入しにくい構造になっています。
また、12VHPWRは、電力供給の効率を向上させるために、より高い電圧と電流を扱うことができる設計になっています。
この設計上、コネクタのピンは高品質な素材と構造になっており、電流容量に余裕があるため発熱のリスクも軽減できます。
さらに、信号用のピンにより、GPUと電源ユニットが「どの程度の電力供給が許可されているか」を通信しているので、間違ったケーブルや不適切な電源構成での過電流供給が防止され、安全性が向上しています。
ケンさん
12VHPWR対応のグラフィックボードについて
最新のグラフィックボードにおける新しい電源規格の採用状況について見ていきましょう。
GeForce RTX 40シリーズから本格採用
12VHPWRコネクタは、2022年の4月頃にGeForce RTX 3090 Tiのごくごく一部の製品で採用され始め、GeForce RTX 40シリーズから本格的に採用されるようになりました。
特に、NVIDIAのGeForce RTX 40シリーズ、50シリーズのハイエンドなグラフィックボードでは、この12VHPWRコネクタが採用されています。
具体的には、RTX 3090, 4070, 4080, 4090, 5070, 5080, 5090あたりですね。
ただし、このシリーズが必ず12VHPWRコネクタというわけではなく、PCI Expressコネクタを複数本使っている場合もあります。
そのため、どちらが使われているかは製品ごとに仕様を確認しましょう。
12VHPWRの採用割合
GPUチップ別の12VHPWRコネクタの採用件数、割合をまとめておきます。
採用件数や割合をざっくり知っておくことで、どのくらい選択肢の幅があるのか分かるので、パーツ選定をする際に役立つと思います。
GPUチップ | 12VHPWRコネクタ | 採用割合 | |
---|---|---|---|
搭載件数 | 未搭載件数 | ||
NVIDIA GeForce RTX 3090 Ti | 2 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 4060 | 0 | 38 | 0% |
NVIDIA GeForce RTX 4060 Ti | 0 | 49 | 0% |
NVIDIA GeForce RTX 4070 | 6 | 28 | 17.6% |
NVIDIA GeForce RTX 4070 SUPER | 27 | 1 | 96.4% |
NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti | 32 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti SUPER | 28 | 1 | 96.6% |
NVIDIA GeForce RTX 4080 | 13 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 4080 SUPER | 16 | 1 | 94.1% |
NVIDIA GeForce RTX 4090 | 17 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 5060 | 0 | 16 | 0% |
NVIDIA GeForce RTX 5060 Ti | 5 | 31 | 13.9% |
NVIDIA GeForce RTX 5070 | 26 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 5070 Ti | 18 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 5080 | 14 | 0 | 100% |
NVIDIA GeForce RTX 5090 | 4 | 0 | 100% |
AMD Radeon RX 7600 | 0 | 12 | 0% |
AMD Radeon RX 7600 XT | 0 | 7 | 0% |
AMD Radeon RX 7700 XT | 0 | 12 | 0% |
AMD Radeon RX 7800 XT | 0 | 16 | 0% |
AMD Radeon RX 7900 GRE | 0 | 8 | 0% |
AMD Radeon RX 7900 XT | 0 | 13 | 0% |
AMD Radeon RX 7900 XTX | 0 | 12 | 0% |
AMD Radeon RX 9070 | 0 | 3 | 0% |
AMD Radeon RX 9070 XT | 0 | 5 | 0% |
Intel Arc A380 | 0 | 2 | 0% |
Intel Arc A580 | 0 | 2 | 0% |
Intel Arc A750 | 0 | 4 | 0% |
Intel Arc A770 | 0 | 7 | 0% |
Intel Arc B570 | 0 | 2 | 0% |
Intel Arc B580 | 0 | 5 | 0% |
このデータは、自作PCツールのPCパーツの仕様データを元に集計しています。
RTX 40シリーズではRTX 4070 SUPER以上、RTX 50シリーズでは5070以上から12VHPWRコネクタが採用される割合が急上昇します。
95~100%なので、ほぼほぼ12VHPWRコネクタと言っても良いでしょう。
4070 SUPERは220W、5070は250Wの電源供給が必要になるので、このグレードあたりから12VHPWRコネクタが中心となります。
8ピンのPCIeコネクタが1本の場合、PCIeスロットを含め最大225Wまでとなります。
余裕のある電源供給を考えると220Wあたりで、8ピンのPCIeコネクタが2本必要になっています。
それであれば、始めから12VHPWRコネクタを搭載した方がいいということでしょうね。
また、AMD RadeonやIntel Arcに関しては、12VHPWRコネクタは採用されていません。
各社ハイエンドなGPUであれば220Wを超えますが、現状、8ピンのPCIeコネクタを2本以上にすることで対応しているようです。
12VHPWR対応の電源ユニットについて
12VHPWR対応電源ユニットの供給能力や新しい電源規格の採用状況について、詳しく見ていきましょう。
電源供給能力について(150W/300W/450W/600W)
12VHPWRコネクタは、仕様上、最大供給電力が150W、300W、450W、600Wと設定されています。
そのため、使用するグラフィックボードのTGP(Total Graphics Power)を確認した上で、PCIeスロットから供給される最大75W分を含めて、12VHPWRのワット数で十分な電力が供給できるかを確認する必要があります。
ただ、電源ユニットが12VHPWRに対応しているかどうかは分かるものの、何ワットに対応しているかは仕様に書かれていないことも多いです。
150W、300W、450W、600Wのどれかで設定されていると言っても、150Wの8ピンのPCIeコネクタが不足してこのコネクタが登場したことを考えると、300W以上のものが搭載されることが多いですね。
4070 SUPERは220W、5070は250Wであることを考えると、そこそこのハイエンドGPUであれば、特にワット数を意識しなくても12VHPWRコネクタの有無だけを確認すればいいと思います。
しかし、RTX 4090が450~480W、RTX 5090が575~600Wなので、これらのハイエンドGPUを搭載したい場合は、電源ユニット側の12VHPWRコネクタが600Wまで対応していることが明確に記載されている電源ユニットを選ぶのが良いでしょう。
12VHPWRの採用割合
電源容量別の12VHPWRコネクタの採用件数、割合をまとめておきます。
採用件数や割合をざっくり知っておくことで、どのくらい選択肢の幅があるのか分かるので、パーツ選定をする際に役立つと思います。
電源容量 (ワット数) | 12VHPWRコネクタ | 採用割合 | |
---|---|---|---|
搭載件数 | 未搭載件数 | ||
500 | 0 | 15 | 0% |
550 | 1 | 24 | 4.0% |
600 | 0 | 8 | 0% |
650 | 1 | 54 | 1.8% |
700 | 0 | 11 | 0% |
750 | 27 | 73 | 27.0% |
800 | 0 | 5 | 0% |
850 | 56 | 68 | 45.2% |
900 | 0 | 1 | 0% |
1000 | 43 | 49 | 46.7% |
1050 | 5 | 4 | 55.6% |
1100 | 1 | 2 | 33.3% |
1200 | 22 | 12 | 64.7% |
1250 | 3 | 2 | 60.0% |
1300 | 11 | 9 | 55.0% |
1350 | 1 | 1 | 50.0% |
1500 | 1 | 4 | 20.0% |
このデータは、自作PCツールのPCパーツの仕様データを元に集計しています。
700Wまでの電源ユニットでは、12VHPWRコネクタはほとんど採用されていません。
12VHPWRコネクタは最大600Wまで供給可能なので、そもそも電源容量自体が少ないと採用できません。
また、仮に700Wの電源ユニットでGPU側に12VHPWRで600W流すとすると、他のパーツ(CPU、マザーボード、SSD、ファンなど)に回せるのは100W未満になってしまいます。
現実的に、GPU + システム全体を安定駆動させるには容量不足なので、700Wの電源ユニットに12VHPWRを付けてもあまり意味がなかったり、リスクがあったりします。
また、12VHPWRコネクタが300Wまでの場合であれば、システム全体で400Wまで許容できるので意味がありそうですが、そうなるとPCIeコネクタよりもケーブルの品質や回路、認証などのコスト増により、価格と電源容量のコストパフォーマンスが悪くなります。
500W~700Wぐらいの電源ユニットの場合、コストパフォーマンスが求められる傾向にあるので、12VHPWRコネクタを採用しずらいという背景があるようです。
そのため、12VHPWRコネクタ搭載にしたいのであれば、製品数が多く、かつ、搭載割合が約50%と高く選択肢が絞られすぎない850W, 1000W, 1200Wあたりの電源ユニットがおすすめですね。
選択肢が少なくなりすぎると他に欲しい仕様や機能があった時に選べない可能性がでてきますね。
12VHPWR搭載の電源ユニットは仕様を要チェック
12VHPWRコネクタが必要な場合は、必ず電源ユニットに搭載されているか仕様を確認しましょう。
最近普及してきたコネクタであるため、電源ユニットによって付いている、付いていないが明確に分かれているので、適当に選んでしまうと12VHPWRコネクタが付いていなかった…ということにもなります。
今までPCIeコネクタでGPUへの電源供給をしてきたので、電源ユニットにはPCIeコネクタが付いていることが多いです。
どの電源ユニットでも大体6+2ピンが3~5本ぐらい付いているのが一般的ですね。
安い電源ユニットだと6+2ピンが1本でハイエンドなGPUの場合足りなくなる(そもそも電源容量が足りない場合が多いですが…)ことはありますが、大体は幅広くカバーできるだけの6+2ピンが付いています。
一方で、12VHPWRコネクタは最近登場したコネクタで、ハイエンドGPUでしか使わないので、搭載されていないことも全然あります。
先程の搭載割合の表からも分かる通り、全体で見ると大体3~4割ぐらいしか搭載されていません。
PCIeコネクタが欲しい場合は、本数の問題はありますが基本的には搭載されているので適当に電源ユニットを選んでも何とかなりました。
しかし、12VHPWRコネクタの場合はまだまだ搭載されていないこともあるので、その感覚で選んでしまうと12VHPWRコネクタが付いていなかった…ということもあり得るので、事前に仕様は確認しておきましょう。
まとめ:今後12VHPWRが当たり前になるかも!
12VHPWRコネクタについて、基本的なところから安全性やGPU・電源ユニットでの採用割合まで解説しました。
改めて重要なポイントをまとめておきます。
- 12VHPWR(16ピン)は最新GPU向けの新しい電源コネクタ
- 最大600Wまで安定した電力供給が可能
- RTX 40シリーズ・50シリーズのハイエンドGPUを中心に採用
- 850W以上の電源ユニットで12VHPWRコネクタの搭載数が多い
- 従来のPCIeコネクタよりも高出力・安全性が向上
- 信号用ピンで電力供給を最適化し過電流リスクを低減
- 12VHPWRはケーブル1本で配線が簡素化される
- 電源ユニット選定時は12VHPWR対応有無を必ず確認する
近年のグラフィックカードの高性能化に伴い、従来のPCIeコネクタでは電力供給が限界に達しつつあります。
その中で登場した12VHPWRコネクタは、最大600Wという大容量の電力供給を1本のケーブルで実現し、配線の簡素化や安全性の向上にも繋がっています。
特にNVIDIA GeForce RTX 40シリーズや50シリーズのハイエンドGPUでは採用が進んでおり、対応電源ユニットの選択肢も徐々に拡大しています。
今後、さらなるGPU性能の進化に対応するため、12VHPWRコネクタはPCパーツ業界で標準的な存在となっていくことが予想されます。
そのため、これからハイエンドな自作PC・アップグレードする際には、12VHPWRに対応したGPU、電源ユニットも視野に入れて構成を考えると良いでしょう。
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≫ ツール:自作PCパーツの見積もり・互換性チェックツール